2024年3月22日金曜日

【小説】時機到来


時機到来
理想を追い求め、ひたすらにつないだ。

 

 かつて、多くの本とそれを学ぶ人とが集められたこの地には、小さな博物館が建てられていた。私はたまたま足を運んだそこで、隣接する寺の本尊であったという菩薩像のレプリカを見た。ーーどこかでこの像を見た覚えがあるのだが、果たしてそれが、別の博物館の特別展なのか、子どもの頃の遠足なのか、図録か何かなのか、まったく思い出せなかった。

 本尊はすでに失われたと思っていたところ、めったに開帳しないだけで現存しているということを知った。ーー日時を限って菩薩像を拝観することができると案内された印刷物を、博物館の片隅で見つけたのだった。私はその企画に応募し、しばらくして詳細が記された案内が届いた。

 その日、数百年前に作られたというその像に私は見入った。本物は、年数相当の状態であったにもかかわらず、細やかな光を放っているようであった。本堂を出る時に、本堂に入れる人数も限られているため、開帳時は毎回抽選となり、何回も応募して初めて拝むことができる人が多いことを話している人たちがいた。

 次の日、昼の光の中で眠気を誘われてうとうとした時、昨日見た菩薩像が現れた。像は作られたばかりで、本堂の窓より入る光を受けて美しく輝いていた。私の他、何人かが像を見上げていた。

 私たちの主君が語った。なぜこの地に多くの書物と人間を集めたのか。それは、智が人々を救うことが可能だからだと。ただ、それには時間がかかる。この菩薩は、学びをつなぐ人々を守護し、機が満ちたその時には、仏としてこの世に姿を現すのだという。

 「その時が来たら、皆で集い、仏の下生を迎えようではないか」

 そう言って微笑んだ主君は、しばらくしてこの世を去った。   

 「世は移り変わり、それを可能とする技術が開発され、あなたの目指した世界が訪れたのですね」

 光の暖かさを感じながら、数百年とは、思ったより早い再会がなったと、私は感じた。

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