この作品はいずれ紹介したいと思いながら、なかなか手が出せないでいました。これまで紹介してきた作品よりも内容もテーマも描写も重苦しく、エンタメとしての漫画としては、難解であるし最初から(文字通り〝最初から〟かもしれません……)受け付けないという方もあると思ったからです。また、私などが紹介文を書いたところで、作者の魚豊氏の作品に託した思いから外れた、まったく見当違いなことを述べてしまうのではないかという危惧があったからです(ちなみに、「エンタメとしての漫画」として難しいところがあるとは述べたものの、作者の魚豊氏が時々ぶっこんでくるツッコミどころ不明なギャグは、作品の重苦しさとは別のセンスが光っていました)。
ところが、今秋にアニメ番組として放映されることをX(旧Twitter)やYouTubeのフィードに上がって来た情報で知りました。ーー驚きです。一方で、多くの人々がこの作品を受け入れるだけの〝準備〟が整ってきたのかとも感じました。
動かせ 歴史を 心を 運命を ――星を。
舞台は15世紀のヨーロッパ。異端思想がガンガン火あぶりに処せられていた時代。主人公の神童・ラファウは飛び級で入学する予定の大学において、当時一番重要とされていた神学の専攻を皆に期待されていた。合理性を最も重んじるラファウにとってもそれは当然の選択であり、合理性に従っている限り世界は“チョロい”はずだった。しかし、ある日ラファウの元に現れた謎の男が研究していたのは、異端思想ド真ン中の「ある真理」だった――
上の引用は作品の紹介文ですが、この文章に続いて「命を捨てても曲げられない信念があるか? 世界を敵に回しても貫きたい美学はあるか?」とあり、「アツい人間」を描いた作品なのだと続いているのですが、私には登場人物たちが「アツい人間」とはとても思えないところがおおいにありました(へそ曲がりですみません)。
私の印象としてはみんな〝病んで〟います。世界と時代が〝病んで〟いるとも言えます。その中で、〝病んで〟いるままになれなかった登場人物(皆、自分に嘘がつけなかった人たちではあると思います……)たちが、自分ではない誰かに、自らが魅せられた美しいものーー「ある真理」ーーを託すという物語の形式をとっている作品だと私は解釈しました。
登場人物たちは、当時の世界と時代の中においては、取るに足らない存在にすぎません。しかしながら、彼らがつなごうとした「ある真理」を彼らがそれぞれに美しいと感じた瞬間瞬間の連なる果てに、新たな世界と時代とが開かれる予感に満ち、その静けさの中で作品は幕を下ろします。
もしかしたら、現代もまさに『チ。』で描かれる作品世界のような状況にあるのかもしれません。2020年に連載が始まった作品(すでに完結)ですが、これまでであればアニメ化はされなかったのではないかと思うような作品(YouTubeでは、内容的にヨーロッパでは放映は無理みたいなことを述べている動画もあります……)が、4年後にアニメ化されることは、確かに現代も変わろうとしているこ証左とも言えるでしょうか。
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